小説家は眠らない

くだらない大学生男子がオタクチックなことをうだうだ書いていく、予定。

劣勢、無慈悲、残酷。戦場に身を置く屈折した一人の男「皇国の守護者」

ウルトラジャンプで連載していた傑作架空戦記。僅か全五巻ながら、原作の雰囲気をよく表していたと思います。

 

 

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

皇国の守護者 (1) (ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ)

 

 あらすじ

人と共存する世界で、小さいながらも貿易によって繁栄していた<皇国>と、その貿易赤字を解消するために海の彼方から侵略してきた<帝国>との戦争、それをきっかけとして激化する<皇国>内部の権力闘争を描く。

 

 

 

架空戦記としてのレベルが相当に高い作品です。作画は伊藤悠先生ですが、元々の原作は佐藤大輔先生の同名小説となっています。漫画も原作も面白いですが、私は漫画のほうが好きですね。

 

ここのところ忙しく、ブログをしばらく更新していませんでしたが、一段落ついたので更新を再開しようと思います。楽しみにしてくださっていた方々、大変申し訳ありませんでした。

 

感想

再開一発目はウルトラジャンプで連載されていた「皇国の守護者」でいこうと思います。少ない巻数ながらも割と人気な作品なので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

 

元々は同名の小説があるのですが、それを漫画化したらすごかったというわけですね。正直私は原作よりもこちらのほうが良かったです。もちろん原作ありきの作品ですから、比べること自体間違っているのでしょうが……。

 

というのも、この漫画は切迫した状況を描くのがとても優れているからです。戦場の動揺や、兵士の心理描写が絵を通して抜群に伝わってくる。心躍る戦闘描写は確かに魅力的なのですが、戦争によって動かされる登場人物達が素晴らしい。

 

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特に主人公「新城直衛」の在り方は惚れ惚れしますね。指揮を執る立場の人間として、時に冷酷に、時に部下を思いやる姿は理想の指揮官と言えるでしょう。彼の存在こそがこの漫画の一番の魅力であり、彼がいなければこの物語は成り立ちません。

 

屈折した性格、激しい自己嫌悪に自身を侮蔑する、嫌悪を感じる人間にはそれなりの態度を取るなど、お世辞にも良い性格ではありません。おまけにチビで凶相(これは原作の挿絵と相違あり。原作の挿絵は筋骨隆々の男と描かれる場合が多い。設定では背丈は高くなく、凶相である)と、強烈な人物です。

 

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ただし、兵はできるだけ死なせないという信念から、下士官兵からの信頼はとても厚い男です。正しくない男ではありますが、その分兵士から慕われる人間ですね。こういったねじまがった人間が主人公という漫画はなかなか面白いです。熱い少年漫画ではあまり見れませんし。

 

また、この漫画は架空戦記のため、世界観が特殊です。中でも特筆すべきは「剣牙虎(サーベルタイガー)」と「天龍族」の存在。この二つは物語に大きく関わっており、新城は度々この生物達に助けられます。

 

一番物語に関わってくるのは「剣牙虎」でしょう。新城率いる部隊はこの「剣牙虎」と共に行動する部隊です。物語中では猫と呼ばれるこの生物は戦闘力、知能のレベルが高く、戦争においてもその能力を遺憾なく発揮します。

 

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もう一つの「天龍族」は漫画ではあまり登場しませんが、作中では結構重要な存在だったりします。その辺りは原作小説を読んでみたほうが早いですね。

 

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このように様々な生物が現れて、戦争に関わってくるのもこの漫画の面白いところですね。どの存在も立ち回りがそれぞれ厳密に定まっていますから、いかに練られた設定なのかがよく分かります。こういう設定をさらりと出してくるところに構成の巧さも伺えます。

 

こういった具合に頼れる仲間が数多く存在する作品ですが、敵もそれに負けず劣らず強大です。

 

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戦力でも戦略でも敵である帝国は優れています。つまりは圧倒的に劣勢ということですね。そういうわけですからどんどんと人が死んでいく。

 

作中で新城はこのような言葉を漏らしています。

 

幼年学校の頃、あいつを初めて色街に連れて行ったのは僕なんだ。

猫との付き合い方も教えてやった。

何もかも、無駄になったな。

 

新城は戦略家として非常に有能で、限りなく劣勢な状況でも優れた戦略を生み出しますが、それでも自分の部下が死んでいくことがままあります。だからこそこの漫画は面白い。

 

次に誰が死ぬか分からないからこそ、この漫画は緊張感に満たされながら読むことができます。敵が強く、負け戦である状況でこそ新城は輝く。

 

このように好きな人が読むとたまらなく面白い作品なのですが、上記に書いた通り五巻で終わってしまった作品なので、完結が悔やまれます。噂はいろいろありますが、もう少し続いて欲しかった作品ですね。小説の本当に最初の部分しか描かれていませんので。

 

しかしあそこで終わってよかったという人もいますし、私もまああの終わり方でいいのではないかと思うので、結果的には良かったのかもしれません。

 

すぐに読み終わりますし、練りに練った設定で読み応えがある作品なので、気になった方はぜひ一度読んでみてくださいね。